桂よりも三津の方が断然冷静だった。何て呼べばいい?と首を傾げて入江に目を向けた。
「んー杉蔵か小太郎。呼びやすい方でええよ。呼び間違えちゃいけんからね。」
「ちゃんと別名あるんですね。じゃあ小太郎さんがいいです。そっちの方が抵抗ないです。それにしても杉蔵は渋いですね。」
「君の順応性には恐れ入るよ……。」
以前改名した時にその名で呼びたくないと泣いていた三津はどこへ行ったのやら。
桂は少し寂しく感じながらもしっかりとこちらの動きに合わせてくれる事に感謝した。
「まぁ私は名前変えた所で顔が知れ渡ってるのでねぇ……。」
余計な事は致しませんと苦笑した。
「そこなんだが,新選組は隊士を増やし壬生から西本願寺に拠点を移してる。
幹部の目は欺けないが,君の事を知らない輩もかなり増えている。」
「なるほど。前とはだいぶ状況が違うと。」 【低成本生髮?】 什麼是生髮精油?有用嗎?
「その辺の詳しい話は宿に入ってからする。
今は松子の負担にならん程度に距離を稼ぎたい。」
「松子,しんどくなったらいつでも言いよ?」
「無闇に松子と呼ぶのやめてもらえません?」
唐突に名前を連呼する二人に三津は冷ややかな視線を送った。その視線を好物とするのがこの変態。
「あー久しぶりのその目ゾクゾクするぅ……。ついでに尻を蹴ってはくれないか。」
「違う意味で私を疲れさせる気ですか?阿呆な事言わんと行きますよ。」
そう怒って入江の後頭部を叩き,一人先を歩き出した背中を見て桂は顔を見合わせてふっと笑った。耳が真っ赤だ。
「松子,そんな可愛い照れ方をすると余計興奮する。」
「後は二人でよろしくどうぞ。」
ここは相手にするべからず。三津は振り返らずに真っ直ぐ歩き続けた。「木戸さんよろしくどうぞやって。この前の続きでもする?そこにいい茂みが。」
「は!?気持ち悪い事言うな!松子!この変態をどうにかしてくれっ!!」
三津はちらっと振り返って二人を一瞥してから,最初から自分は一人だと言わんばかりに見て見ぬふりをした。
「私達の松子は冷たいですねぇ。ここは二人で慰め合いましょう。」
入江は満面の笑みで桂の左薬指をきゅっと握った。その一瞬で桂の全身には鳥肌が立ち,その手を振り払って全力で逃げた。
これはかなりいい玩具になるなと入江はにんまり口角を上げた。
「逃しません。」
全力疾走の桂をさらに全力で入江が追跡してあっと言う間に三津を抜き去り,三津は置いてけぼりを食らった。
「ちょっ!問題児置いて行く気ですか!?ねぇ!!聞いてる!?」
流石にここで置いて行かれては困る。三津も必死に二人の背中を追った。
『何か前にもこんな事あったな……。』
壬生へ向かう道中,大の大人の鬼ごっこに付き合わされた日を思い出した。
『また戻るねんな……あそこに……。
とか考えてる場合ちゃう!!』
「初日からこんな事して……。二人共……絶対許さんっ!!」
この日は三津の怒りが頂点に達した所で宿に入った。
「案外楽しいな三人旅。」
「……この先ずっとこの茶番が続くの?」
清々しい顔の入江とは対象的に,初日から疲労困憊の三津は絶望でしかないと落胆した。今からでも山縣の元へ帰りたい。
「すまない松子……。部屋でゆっくり休もう……。小太郎,お前は隣りの部屋だ。」
桂は三津の肩を抱き寄せてから,お前のせいで初日から予定が狂ったと入江を指差し怒りを顕にした。
入江はそれ以上桂に関しては何も言わず,三津の頭を優しく撫でた。
「早よ帰らんと有朋が寂しがる。」
「そうでした。帰りましょ。」
二人は世話の焼ける奴が多いなぁと笑い合った。
だけど三津は飄々とする入江こそ,一番心配になる相手だ。
高杉達と四天王と謳われ,共に過ごしてきたこの男が親友を失った時に味わう喪失感が一番大きいのではと思っていた。
「九一さん,無理せんとってね?」 【植髮終極指南】如何選擇最佳植髮診所?
眉尻を下げた顔で見上げれば,その表情を笑われてしまった。情けない顔やなと頬を抓まれた。
「問題ないとは確かに言えん。大丈夫かどうかはその時を迎えんと分からん。
でもな,今までと違うんは三津が傍におってくれる事や。」
入江は心底穏やかな顔をしていた。それは三津にはすぐ分かった。強がりでも何でもない事に安心した。
「さぁ,今日はどうやって有朋揶揄おうかねぇ。」
「ほどほどにお願いしますね。」
いい歳した大人達が子供並みにはしゃぎ回った時の損害は大きいのだ。
それから高杉の療養は人知れず続いた。調子の良い時はたまに散歩に出歩いてはいるものの,屯所に顔を出す事はしなかった。
「あっ!またお酒呑んで!」
この日三津が入江と山縣と高杉の元を訪ねると,居間で胡座をかきながら酒を嗜んでいた。
「これしか楽しみないんやけぇ許せや。俺の余生どう過ごそうが何も言えんって言ったん三津さんやぞ。」
「それはそうですけど。」
三津が不満げな顔で側に座ると高杉は嬉しそうに目を細めた。
「大丈夫,量は弁えちょる。それにしても三津さんが俺の為にって足運んでくれるのは優越感やなぁ。
京におる時看病した甲斐があったわ。」
今日は機嫌が良いらしい。高杉は普段より良く笑っていた。
「その節はお世話になりました。」
確かにあの時は大変お世話になった。殆ど魘されていたから記憶はないがお粥を作ってもらったし,ずっと側に居てくれたのは知っている。
「なぁ,そのお礼と言っちゃあ何やが最期に一発ヤらせ……。」
「おうのさんの前っ!」
高杉が言い切る前に怒鳴りつけた。右手は拳を作り振り翳しそうになった所を何とか止めた。
おうのは困惑した顔で笑いながらお構い無くと言っている。お構い無くとかそう言う問題ではない。
「ええやろ。減るもんやないし。減るのは体力ぐらいやろ。」
高杉はニヤニヤしつつ懲りずに話を続けた。今日はやけに絡んでくる。
一度は呆れた顔をした三津だが,小さく息をついてから真っ直ぐに高杉と向き合った。
「今度二人の時間作りますか?」三津から飛び出したまさかの発言におうのは開いた口が塞がらない。
「嫁ちゃん早まるなっ!いくら高杉が哀れやとは言えっ!!」
山縣はそんな簡単に自分を売るなと三津の両肩を持って激しく前後に揺らした。
「待って待って!別にそんなつもり無いです!哀れでもないっ!話を!二人で話をっ!!」
大混乱の山縣に三津の声は全く届いてない。
「有朋止めろ。ちゃんと話聞け。」
見兼ねた入江が静止してようやく肩から手を引いた。三津は頭がくらくらすると正座のまま畳に突っ伏した。
「わっ……私はただ高杉さんと話が……したい……。」
弱々しい声でぼそぼそ喋ると山縣はなんだそういう事かと納得した。
「嫁ちゃん紛らわしい言い方するなや。」
「山縣さんこそいかがわしい想像やめて……。」
「どう考えてもあの話の流れで二人の時間って言われたら嫌でもあっち想像するやろが。なぁ,おうのさん。」
「え!?いやっ私は……。」
急に話に巻き込まれたおうのは頬を赤くして俯いていた。
「三津が簡単に晋作にさせる訳ないやろが。それなら私が先に味わい尽くして……。」
「九一さんまで堂々と何言っちゃってるの?」
『九一さん,やっぱり私は歩く問題児のようです。』
天井を見上げながら心の中で今日の出来事を話した。これは文には書けない。心配はかけたくないし楽しい話だけ記したい。
“歩く問題児は健在だね”
桂の声と呆れたような笑みが浮かんだ。【低成本生髮?】 什麼是生髮精油?有用嗎?
「どうせ問題児ですよ……。おらんくなって清々したでしょ。」
わざと悪態をついてみるけど,弱音を吐き自分に甘えてすり寄ってくる姿を思い出してしまい胸が痛い。
『違う……。前と状況が違う……。』
前は自分が突き放した。だから桂は追ってきてくれた。だけど今回は自分が突き放された。そこを忘れてはいけない。
このまま死ぬまで,別れてはよりを戻してを繰り返すよりも終わらせて思い出にしてしまう方がいいに決まってる。
辛いのは今だけだ。そう思いながらぎゅっと目を瞑った。
次の日朝一に文と一之助が三津の様子を見に来た。
「痛そうな色……。」
痣の出来た額を見て,こんな傷負わせてただじゃおかんと文は憤る。しばらく痣は残るだろう。
「この傷でお客さんの前に立つの嫌やろ?」
しずはどうしようかねぇと困り顔。でも三津は大丈夫と言い張る。転んでぶつけたとでも言っておけば意外と信じてもらえると笑った。
「体調悪くなったらすぐに言えや?三津さん全然頼ってこんけぇ心配じゃ。」
すると文はにんまり笑った。
「だって三津さんが頼るのは入江さんだけやもん。」
「文さんっ!」
三津はそんなこと無いと顔を真っ赤にして否定した。しずにあらあらご馳走様と言われてしまい余計に顔を赤くして俯いた。
「でもここに入江さんはおらんのやけ頼れや。」
しずも文もそうよと頷く。味方がいるのはこんなにも安心するんだな。
「私甘えるの下手です。頼るのも苦手です。でもみんなと一緒に居られたら嬉しいです。だから……よろしくお願いします。」
潤んだ目を隠すように頭を下げた。
三津から文が届いたよと白石が屯所を訪れた。念には念を入れ,文は白石邸に届くようにしてそれから入江に渡るようになっている。
入江は満面の笑みで受け取ると部屋で一人で目を通した。
「ふふっ短っ。三津は筆不精か?」
もっと寂しい会いたいと書いてくれてもいいのにと一人笑った。そして文に挿まれた花を指先で撫でた。
見覚えのある花だ。確か草むしりを命じられた時に雑草と一緒に抜いた気がする。
「居るんやね。向こうに。」
三津の存在が膨れ上がってしまったから寂しくて堪らない。入江はそのまま筆を執りすぐに返事を書いた。「転んでぶつけたん?案外鈍くさいんやなぁ。」
「何もない所でもよく転ぶんですよ。」
笑ってそう言うと大抵の客は素直に信じてくれた。たまに察しのいい客がいて,小さな声で嫌がらせ受けとらん?と心配してくれた。
「これ以上怪我せんように一之助が面倒見ちゃらんといけんなぁ。そしたらまた!ご馳走さん!」
「俺が見とくにも限界あるわ。いつもありがと。」
常連客を外で見送っていると店の様子を窺う女子達の姿を見つけた。
『まさか……。』
三津に石を投げつけた奴らかもしれない。声をかけようとしたが一之助と目が合うと一目散に逃げて行った。
「一之助さん?どうしました?」
「いや,三人ほどこっちの様子窺っとる女子おったけぇ声かけようとしたら逃げられた。」
三津は多分すれ違いざまに嫌味を言ってきたあの子らだなと思った。
「一之助さんに話しかけられるのが恥ずかしかったんちゃいます?」
「いや,どっちかと言うとしつこいぐらい話しかけてくる子らやけぇ……。勝手な予想やけどあの子らが三津さんに怪我させたんやないかって。」
「私の様子見に来たって事ですか?」
一之助は多分と頷いた。三津も気を失う前のぼんやりした記憶を思い出した。走り去る前に聞こえたのは確か女の声。足元は暗かったし視界がぼやけて定かじゃない。
「んー,多分私が辞めずにいる限りまた何か仕掛けて来ますよ。」
「何されるか怖くないん?」
「んーあんまり。ホンマにこれでも結構酷い目見てますから。」
確かに入江の言う通り全く話し合える状態ではなかった。
「心配せんでもあの人にはお三津ちゃんの居場所教えへんからね。みんなもお三津ちゃんの味方,やから安心して。おやすみ。」
幾松はそれだけ言い残して部屋を出た。
それでもまた三津が勝手に居なくなるのではと心配で白石も幾松も気が気じゃなかった。
翌朝二人が部屋を覗くとよほど疲れてたのか部屋の隅で身を小さくして眠っていた。
被った布団が上下しているのを見て二人は胸を撫で下ろした。【植髮終極指南】如何選擇最佳植髮診所?
「そしたら阿弥陀寺行ってきます。お三津ちゃんよろしくお願いしますね。」
幾松は三津の様子を報告したくて早めに屯所へ向かった。きっとみんなも心配してるはずと急いで向かったのだが桂も早々に屯所に来ていた。『最近全然来んかった癖に……。』
広間でみんなから三津が行方知れずのままだと聞かされたのか項垂れて酷く落ち込んでいた。
「今日もみんなで探すけぇ木戸さんは木戸さんの職務に集中してくれ。」
「分かった……。見つかったらすぐに教えてくれ……。あと文ちゃんにも三津が来たら知らせるようにと……。」
「分かった。取り急ぎで一報送る。」
それを聞いた桂は重い腰を上げて広間を出た。その足取りは重く何度も溜息をついた。幾松はその背中を見送るために玄関までついて行った。
「情けない背中。ホンマに何であんなん言うたんよ……。」
「本当にどうかしてた……。三津がいないと駄目なのはこの前で嫌というほど思い知ったのに……。」
幾松は桂の両頬をバチンっと叩いて潤んだ目で睨みつけた。
「このど阿呆!!しっかりしぃ!!」
幾松に怒鳴られた桂は顔を逸して肩を落としたまま屯所を出た。
『何がアカンかったんやろ……。何であの話の流れになったんやっけ……。』
三津は部屋の隅に座り込んでぼーっと考えた。
自分はただ今度こそ傍で支えて生きると決めたのに何故それが拒まれたんだ。
でもこれで良かったじゃないか。私にはあの人を幸せにする力なんてなかった。自分から見棄てる勇気がなかったのだから向こうから捨てられて良かったじゃないか。
『やり直す自信なんかない……。それならもう離れた方がいい……。』
あの人を想いながら忘れてしまった方がいい。
それでも涙が止まらないのは,胸がこんなに痛むのは,あの人への未練なのだろうか。
「お三津ちゃん少しいい?」
「どうぞ……。」
白石の声に掠れた鼻声で返事をした。遠慮がちに中に踏み込んだ白石は三津の前に正座した。
「萩へ向かう日が決まったよ。明後日にここを発つ。それでいいかな?」
「はい,ありがとうございます……。」
三津も居直して額を畳につけて礼を述べた。
「本当に後悔しない?」
白石の問いに三津はふっと笑った。
「後悔は……今まで阿呆ほどしてます。極端な話生きてる事すら後悔してます……。でもそれは私を支えてくれたみんなに失礼やから,これからは身の丈に合った生き方をしていきます……。ホンマにご迷惑おかけしました。」
三津はもう一度深く頭を下げた。畳に額を擦りつけたまま肩を揺らした。
「出立まで少しでも休んでなさい。あとご飯は食べようね。」
白石はその頭を優しく撫でてから静かに部屋を出た。気の利いた言葉もかけてやれなくて大きな溜息をついた。三津がぼーっとしているところへ入江が訪ねて来た。
「九一さん……。」
入江の顔を見た三津の表情が少し和らいだ。それには入江も安堵の笑みを浮かべた。
「出立の日決まったんやな。寂しくなる。」
入江が悲しげに微笑むと三津の表情がまた苦悶に歪んだ。
「大丈夫,会いに行くけんあっちで待っちょって。それに向こうは文ちゃんとフサちゃんがおるんやけぇ間違いなく楽しい。」
三津の手を握って大丈夫大丈夫と目を見て唱えた。三津は潤んだ目で微笑みながら頷いた。
「最後まで甘えっぱなしでごめんなさい。」
「最後?私はまだまだ三津を甘やかすで?会いに行くって言ったやん。頻繁には行けんけどまだ会える。最後やない。」
「脱走して帰り辛いんだろう?」
どう?当たりでしょ?と得意気に見下ろされ,三津はそっぽを向いた。腹立たしいようで吉田の姿に安堵している。
「早く帰らないと余計に心配されてより籠の中の鳥だよ?」
「……分かってますよ。でも。」【生髮藥】一文拆解口服生髮藥副作用丶服食見效需時多久? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
窮屈なんだ。今はあの店に居られる事になんの喜びも感じられないのだ。
「まぁ…。俺も人の事言えないけどね。」
吉田はふっと笑って天を仰いだ。それからゆっくり三津を見下ろすとやはりきょとんとした顔をしていた。
「桂さんに謹慎処分を下されてる。」
参ったよと吉田は笑うが三津は目を大きく見開き勢いよく立ち上がった。
「何してるんですか!はよ戻ってください!!」
抜け出したのがバレたらより重い罰を与えられ兼ねない。
「心配してくれてるの?嬉しいね。でも大丈夫だよ。」
吉田は目元を緩めて久方ぶりの三津に胸を満たした。
「それよりも俺は腑に落ちない事があってね。それは直接会って話さないと気が済まないんだ。」
三津はまたきょとんとした。はて何の事だと首を傾げた。
その様子に吉田は堪えきれず吹き出した。
「やっぱり三津は馬鹿だね。自分で言った事忘れたの?俺と桂さんの気も知らないで。」
馬鹿にしないでくれと吉田は少しずつ三津との距離を詰めた。
「忘れたとは言わせないよ?俺とはもう関わらない。さよならだって幾松さんに言伝てた事。」
『そんなので納得する訳がないだろう?』
吉田は口角を上げて三津の目を覗き込んだ。三津は吉田の言う通り私はとんでもない大馬鹿者だと両手で口を覆い愕然とした。
何で忘れていたのだろう。彼らとの関わりを自ら断つ事を決意したのに。
「思い出した?もう会うことない?馬鹿言ってんじゃないよ。まだ助けたお礼してもらってないから。」
妖し気な笑みを浮かべて,吉田の右手は三津の頬に伸びる。
『あぁ…これだ。この感触。』
吉田は柔らかい三津の頬を摘まんで久方ぶりの感覚に酔いしれた。
三津はと言うと頭の中が真っ白でただ立ち尽くすだけ。黒い瞳だけが挙動不審に暴れてる。
「で…ですからみなさんとさよならするのが恩返しな訳でして…。」
急によそよそしい口ぶりになったのを吉田は鼻で笑った。
言葉とは裏腹に吉田の手を振り払う事も逃げる素振りも見せない。
「本当は会えて嬉しいんでしょ?寂しかったんでしょ?嫌われるのは怖いんでしょ?甘えたいんでしょ?」
只でさえどうすれば正解なのか分からないと言うのに吉田のずけずけとした言葉が三津を混乱させる。
「ちょっ!それよりもはよ帰らな!!」
「そうだね早く帰らないとまずいね。でもこのままで帰る訳にはいかないなぁ。とりあえず撤回しようか。もう会わないって言った事。」
「それは…。出来ません…。」
こんな事している場合ではない。吉田の手をやんわり引き剥がした。
「許さない。」
手首を掴んで三津を自分の胸に引き寄せた。
「撤回しろ。じゃなきゃこのまま連れて帰るよ。」
『またあの情けない顔で困ってるんだろうな。』
自分の腕の中で身を捩る三津の表情が手に取るように分かる。だけど予想に反して三津はそれほどの抵抗を見せないし何も言わない。
「何か言いなよ。」
沈黙の時間が流れる。何を悩んでいるのだろか 。
身を剥がそうと押し返してくる力は弱く,このまま連れて帰れるのではと思った。
「帰りたくないんです…。おじちゃんもおばちゃんも変わってもた…。」
『何て事を言ってるんや私は…。』
吉田の腕の中で後悔した。それでもそれが本心だった。
震える声で放たれた三津の本心に大きな溜め息が返ってきた。
「参ったね。」
吉田の苦笑が降り注ぐ。連れて帰りたいのは山々だけど今日は連れて帰るつもりはない。やっと抜け出せることが出来るようになったから様子を見に来ただけだ。
三津が家の中に籠りっきりで店にも出てこない事は入江や久坂から聞いていた。