入江はそれ以上桂に関しては何も言わず,三津の頭を優しく撫でた。
「早よ帰らんと有朋が寂しがる。」
「そうでした。帰りましょ。」
二人は世話の焼ける奴が多いなぁと笑い合った。
だけど三津は飄々とする入江こそ,一番心配になる相手だ。
高杉達と四天王と謳われ,共に過ごしてきたこの男が親友を失った時に味わう喪失感が一番大きいのではと思っていた。
「九一さん,無理せんとってね?」 【植髮終極指南】如何選擇最佳植髮診所?
眉尻を下げた顔で見上げれば,その表情を笑われてしまった。情けない顔やなと頬を抓まれた。
「問題ないとは確かに言えん。大丈夫かどうかはその時を迎えんと分からん。
でもな,今までと違うんは三津が傍におってくれる事や。」
入江は心底穏やかな顔をしていた。それは三津にはすぐ分かった。強がりでも何でもない事に安心した。
「さぁ,今日はどうやって有朋揶揄おうかねぇ。」
「ほどほどにお願いしますね。」
いい歳した大人達が子供並みにはしゃぎ回った時の損害は大きいのだ。
それから高杉の療養は人知れず続いた。調子の良い時はたまに散歩に出歩いてはいるものの,屯所に顔を出す事はしなかった。
「あっ!またお酒呑んで!」
この日三津が入江と山縣と高杉の元を訪ねると,居間で胡座をかきながら酒を嗜んでいた。
「これしか楽しみないんやけぇ許せや。俺の余生どう過ごそうが何も言えんって言ったん三津さんやぞ。」
「それはそうですけど。」
三津が不満げな顔で側に座ると高杉は嬉しそうに目を細めた。
「大丈夫,量は弁えちょる。それにしても三津さんが俺の為にって足運んでくれるのは優越感やなぁ。
京におる時看病した甲斐があったわ。」
今日は機嫌が良いらしい。高杉は普段より良く笑っていた。
「その節はお世話になりました。」
確かにあの時は大変お世話になった。殆ど魘されていたから記憶はないがお粥を作ってもらったし,ずっと側に居てくれたのは知っている。
「なぁ,そのお礼と言っちゃあ何やが最期に一発ヤらせ……。」
「おうのさんの前っ!」
高杉が言い切る前に怒鳴りつけた。右手は拳を作り振り翳しそうになった所を何とか止めた。
おうのは困惑した顔で笑いながらお構い無くと言っている。お構い無くとかそう言う問題ではない。
「ええやろ。減るもんやないし。減るのは体力ぐらいやろ。」
高杉はニヤニヤしつつ懲りずに話を続けた。今日はやけに絡んでくる。
一度は呆れた顔をした三津だが,小さく息をついてから真っ直ぐに高杉と向き合った。
「今度二人の時間作りますか?」三津から飛び出したまさかの発言におうのは開いた口が塞がらない。
「嫁ちゃん早まるなっ!いくら高杉が哀れやとは言えっ!!」
山縣はそんな簡単に自分を売るなと三津の両肩を持って激しく前後に揺らした。
「待って待って!別にそんなつもり無いです!哀れでもないっ!話を!二人で話をっ!!」
大混乱の山縣に三津の声は全く届いてない。
「有朋止めろ。ちゃんと話聞け。」
見兼ねた入江が静止してようやく肩から手を引いた。三津は頭がくらくらすると正座のまま畳に突っ伏した。
「わっ……私はただ高杉さんと話が……したい……。」
弱々しい声でぼそぼそ喋ると山縣はなんだそういう事かと納得した。
「嫁ちゃん紛らわしい言い方するなや。」
「山縣さんこそいかがわしい想像やめて……。」
「どう考えてもあの話の流れで二人の時間って言われたら嫌でもあっち想像するやろが。なぁ,おうのさん。」
「え!?いやっ私は……。」
急に話に巻き込まれたおうのは頬を赤くして俯いていた。
「三津が簡単に晋作にさせる訳ないやろが。それなら私が先に味わい尽くして……。」
「九一さんまで堂々と何言っちゃってるの?」