『九一さん,やっぱり私は歩く問題児のようです。』
天井を見上げながら心の中で今日の出来事を話した。これは文には書けない。心配はかけたくないし楽しい話だけ記したい。
“歩く問題児は健在だね”
桂の声と呆れたような笑みが浮かんだ。【低成本生髮?】 什麼是生髮精油?有用嗎?
「どうせ問題児ですよ……。おらんくなって清々したでしょ。」
わざと悪態をついてみるけど,弱音を吐き自分に甘えてすり寄ってくる姿を思い出してしまい胸が痛い。
『違う……。前と状況が違う……。』
前は自分が突き放した。だから桂は追ってきてくれた。だけど今回は自分が突き放された。そこを忘れてはいけない。
このまま死ぬまで,別れてはよりを戻してを繰り返すよりも終わらせて思い出にしてしまう方がいいに決まってる。
辛いのは今だけだ。そう思いながらぎゅっと目を瞑った。
次の日朝一に文と一之助が三津の様子を見に来た。
「痛そうな色……。」
痣の出来た額を見て,こんな傷負わせてただじゃおかんと文は憤る。しばらく痣は残るだろう。
「この傷でお客さんの前に立つの嫌やろ?」
しずはどうしようかねぇと困り顔。でも三津は大丈夫と言い張る。転んでぶつけたとでも言っておけば意外と信じてもらえると笑った。
「体調悪くなったらすぐに言えや?三津さん全然頼ってこんけぇ心配じゃ。」
すると文はにんまり笑った。
「だって三津さんが頼るのは入江さんだけやもん。」
「文さんっ!」
三津はそんなこと無いと顔を真っ赤にして否定した。しずにあらあらご馳走様と言われてしまい余計に顔を赤くして俯いた。
「でもここに入江さんはおらんのやけ頼れや。」
しずも文もそうよと頷く。味方がいるのはこんなにも安心するんだな。
「私甘えるの下手です。頼るのも苦手です。でもみんなと一緒に居られたら嬉しいです。だから……よろしくお願いします。」
潤んだ目を隠すように頭を下げた。
三津から文が届いたよと白石が屯所を訪れた。念には念を入れ,文は白石邸に届くようにしてそれから入江に渡るようになっている。
入江は満面の笑みで受け取ると部屋で一人で目を通した。
「ふふっ短っ。三津は筆不精か?」
もっと寂しい会いたいと書いてくれてもいいのにと一人笑った。そして文に挿まれた花を指先で撫でた。
見覚えのある花だ。確か草むしりを命じられた時に雑草と一緒に抜いた気がする。
「居るんやね。向こうに。」
三津の存在が膨れ上がってしまったから寂しくて堪らない。入江はそのまま筆を執りすぐに返事を書いた。「転んでぶつけたん?案外鈍くさいんやなぁ。」
「何もない所でもよく転ぶんですよ。」
笑ってそう言うと大抵の客は素直に信じてくれた。たまに察しのいい客がいて,小さな声で嫌がらせ受けとらん?と心配してくれた。
「これ以上怪我せんように一之助が面倒見ちゃらんといけんなぁ。そしたらまた!ご馳走さん!」
「俺が見とくにも限界あるわ。いつもありがと。」
常連客を外で見送っていると店の様子を窺う女子達の姿を見つけた。
『まさか……。』
三津に石を投げつけた奴らかもしれない。声をかけようとしたが一之助と目が合うと一目散に逃げて行った。
「一之助さん?どうしました?」
「いや,三人ほどこっちの様子窺っとる女子おったけぇ声かけようとしたら逃げられた。」
三津は多分すれ違いざまに嫌味を言ってきたあの子らだなと思った。
「一之助さんに話しかけられるのが恥ずかしかったんちゃいます?」
「いや,どっちかと言うとしつこいぐらい話しかけてくる子らやけぇ……。勝手な予想やけどあの子らが三津さんに怪我させたんやないかって。」
「私の様子見に来たって事ですか?」
一之助は多分と頷いた。三津も気を失う前のぼんやりした記憶を思い出した。走り去る前に聞こえたのは確か女の声。足元は暗かったし視界がぼやけて定かじゃない。
「んー,多分私が辞めずにいる限りまた何か仕掛けて来ますよ。」
「何されるか怖くないん?」
「んーあんまり。ホンマにこれでも結構酷い目見てますから。」