これと言って大きな手間はかかりませなんだ。義母上様、お市様のお部屋の方も、万事おするすると」
「左様か」
「また、お慈殿もお付きの者たちを伴い、別殿の方へ入られた由にございます」
濃姫はそう告げるなり
「……あの…殿」
「ん?」
「申し訳ございませぬ」
と、唐突に頭を垂れた。
「私も、お慈殿を “ いざという時に備えて ” 出来るだけ側に置いておきたかったのですが、
同じ御殿にての同居は、周囲の者たちの反対も強く、思うように計らうことが出来ませなんだ」
お許しあれ、と濃姫が面目なさそうに謝すると
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と、信長は気楽そうに微笑(わら)った。
「気に致すな。あれは、同じ御殿内ならば何かと事を運びやすかろうと、思い付きで言うたまでのこと故」
「面目次第もございませぬ」
「良いのじゃ。 ……それよりも、例の件、いつ動くつもりだ?」
「出来るだけ近い内にと思うておりまする。その為に、殿のお力を、幾らかお借りしとうございます」
「ああ。元々は儂が招いた問題じゃからな」
信長は白い八重歯を覗かせて言うと
「それから、お慈、あの者のことは如何するつもりじゃ?」
夕日に染まる妻の端麗な横顔に訊ねた。
濃姫は夫の顔を一瞥すると、柔らかな吐息を唇の間から漏らしつつ、静かに西の彼方を眺めた。
「お慈殿の件は、全て私が対処致しまする。───今のお慈殿は、危険にございます故」
織田家の奥向きに突として大風が吹き荒れたのは、濃姫たちが小牧山城へ居を移してから、まだ三月(みつき)も経たぬ内のこと。
折しも、九月九日の『 重陽(ちょうよう)の節句 』を祝う、濃姫主催の宴席でのことであった。
この日 奥殿の女たちは、周囲に幔幕(まんまく)を張り巡らした城内の広場に集(つど)って、
その中央で披露されている祝いの舞を、緋毛氈(ひもうせん)敷きの台座の上から、愉しげに鑑賞していた。
重陽の祝いに相応(ふさわ)しく、女たちの周りには白や黄色、薄紅から紫と、ありとあらゆる菊の花が飾られて、何とも華やかである。
それらが臨める広場の最前面には、欄干つきの広い雛壇が設けられており、そこに濃姫、報春院、
お市の面々が、各々の侍女たちを背後に付け、悠然とした構えで端座していた。
女性の数が多ければ、ちょっとした季節の催し事でも優美さが増すものであるが、此度の祝宴は今まで以上の賑わいである。
下の席に座す女たちは、口元を着物の袖で隠しながら
「──昨年の清洲での重陽は、菊見の後で軽い馳走(ちそう)が振る舞われた程度でしたが、今年はほんに賑やかなこと」
「──それはそうでしょう。小牧山に本拠を移してから、初めて行う奥向きの宴ですもの」
「──なれど、これだけ華やかなになった一番の理由と言ったら…」
女たちは、濃姫らが座す雛壇の、すぐ右脇に目を向けた。
そこには、濃姫らのよりも一段低い別の雛壇が設けられており、その上に着飾った信長の側室たち。
即ち、病身の類を除く、三男・勘八の生母である坂氏。
そして二女・冬姫の母であるお養が、肩を並べるように座していた。
普段は外に居を構える側室たちが、城の行事に参列しているという今までにない事態に、奥の者たちは驚きを隠せなかった。