腹を空かせたままにさせるのは可哀そうだが、無いものは仕方ない。補給は待てど暮らせど届かない、今になり島介の言葉を思い出した。
「おおそうだ、孟津に島介殿が入っているはず。兵糧を借りられぬか早馬を出してみよう」
「父上、ならば伯符が参ります。島将軍に礼を尽くすべきでありましょうから」
「おお行ってくれるか。黄蓋が護衛につけ、三百人つけるゆえ息子を頼む」
黄蓋は孫堅が長沙の制圧をしている時からの部将で、
經血過多 三公の招聘を拒否して孫堅に従っている子飼いの人物。大出世を蹴ってまでついてきているので、忠誠度は確かだ。
「この身を挺して若様をお守りいたします」
孫堅に、次いで孫策に拳礼をする。
「急ぐ故直ぐに出ます。それでは明日の朝にでも」
洛陽と孟津は二十キロと離れていない上に、街道は整備されているので回り道も殆ど無い。関所のような部分はあるが、それでも行って戻って来るだけならば時間はさほどかからない。それなのに朝と言ったのは兵糧を伴ってくるとの心意気の表れだろうか。
残る僅かの食糧を皆で等しく分け、一口だけの麦と水で腹を膨らませた。兵は不満があったが、大将である孫堅も同じだけしか食べずに、息子が食糧を貰いに休みもせずに走っていると聞かされたので今日のところは我慢することにしたらしい。
深夜を越えてシーンと静まり返り、風の通る音だけが聞こえてくる。見張りの兵士は数が少ない、何せ城壁に囲まれているから。だが通用口からこっそりと入り込んだ兵が、音もなく洛陽城の西側に溜まる。千人単位で集まるとついに行動を起こした。 宮殿付近に転がって寝て居る孫堅軍を攻撃しだしたのだ。
「て、敵襲!」
寝起きでわけがわからずに警戒しようとするが、まずは何処で寝て居たかを思い出し、方角がどうだったかを思い出す頃には混乱に巻き込まれてしまう。どこからともなく現れては襲い掛かってっ来るので何ともならず、収拾をつけるのを最優先しようとする。
「皆の者、城外に出て戦うぞ! ついて参れ!」
松明を持って軍旗を掲げると、孫堅は東門目指してゆっくりと進む。途中で合う仲間は出来るだけ密集するように命令して、外へ出ることと敵味方の区別をつけるのを目的とした。
東門の外で軍旗を立てると、太鼓を鳴らして集合を命令する。そのうちに夜が明けた。
「ううむ、あれは胡軫軍団だな! 城内で夜襲を受けるとは!」
どうやら結構な数が城内に居るようでこのままここで戦うのは上手くない。連合軍の陣営に戻るべきかそれとも……孫堅は決断を迫られる。孫策も別行動だが、待っているわけにもいかない。
「総員聞け! 我等はこれより南下し荊州へと向かう、遅れるなよ続け!」
玉璽を手にした、これを持って連合軍本営に行くよりも一旦領地で態勢を立て直した方が色々と見通しがつくと進路を定める。本来ならば東へ行くべきところを、突然南に折れたから胡軫も驚く。どこかで情報が漏れたのかと考えたが、そうならば夜襲を受けはしないだろう。
五千程の数になり孫堅軍が移動を始めると、洛陽城から同数程が追撃を仕掛ける。それを見て東の山地からも王方部隊が現れて孫堅軍へ向かって行く。
「むむむ、朱治よ先行して足止めが容易な場所を調べて参れ!」
「御意!」