そこへドスドスと足音を立てての杖を付いた老人が現れる。
威厳を全面に押し出したような、気難しい顔付きで此方を見ていた。
「周斎先生。ご無沙汰してます」
土方は一歩前へ出たと思うと、安全期計算 恭しく頭を下げる。それに斎藤と桜司郎も倣った。桜司郎の足元でたまが不思議そうにそれを見ている。
「おう、歳三にか。その横の小童は誰じゃ」
「鈴木桜司郎と言うんだ。新撰組の隊士で、総司の弟分さ」
土方がすかさず紹介を入れた。何処か見透かされそうな とした目付きに桜司郎は顔を伏せる。
「ほう、あの宗次郎に弟分か。偉くなったもんだな。結構結構。して桜司郎、俯いてちゃあ顔も分からん」
周斎はニヤリと笑うと、髭を弄った。斎藤に肘で軽くつつかれ、桜司郎はおずおずと顔を上げる。
すると周斎からはんん、と訝しげな声が漏れた。
「お主……試衛館に来たことは ェか?」
土方を手で避けると、桜司郎の前にずいと近寄る。そしてじろじろと見始めた。
「いや、それにしては小さい……んん、顔付きも違ェか……」
「な、無いです……」
独り言をぶつぶつと言うと、記憶を遡るように視線を天井へ向ける。
「桜司郎よ、歳はいくつになる」
「えっと……十八になりました」
「十八……じゃあ違ェな。他人の空似と言う奴か。済まなかったのう」
笑いながら桜司郎の肩を叩くと、周斎は元居た場所へ戻った。桜司郎の横にいる斎藤が口を開く。
「周斎先生、この者と面識が?」
「いや、まだ勇に試衛館を継がせる前に道場破りに来た男が居てな。若く見えたが、歳は二十を超えていたか……、歳三と同じように型破りな男だったよ。あちこちの流派を齧っては転々として鍛えていたようだ」
滅法強かった、と周斎は顔を伏せた。
「そのような男が……手合わせをしてみたいものですな」
「あれも打刀ではなく、珍しく太刀を引っ提げておったな。最も、桜司郎とは体格が違うな。もちっと背丈が高かった」
自分の事では無いにしろ、話の中心になっていることがむず痒く思った桜司郎は何とか話題を変えようと口を開く。
「あ、あの。藤堂先生は何方へ……」
旅の道中、土方から藤堂は試衛館で寝泊まりをしていると聞いていた。だが、一向に姿が見えない。
「そう言えば居ねェな。あいつ……俺が居ないからって羽根を伸ばしていやがる」
土方は不機嫌そうに腕を組んで眉間に皺を寄せた。桜司郎は心の中で藤堂に謝罪を入れる。
「平助には、ちと遣いに行ってもらってんだ。案ずるな、あやつは真面目にやってる。お前たちの到着が予定よりも早かったのが悪いんじゃ」
周斎よりぴしゃりと言われると、土方は口ごもった。桜司郎は周斎の助け舟にホッと胸を撫で下ろす。永倉から二人の衝突を避けるようにと言われながら、自らが火種を撒いてはどうしようも無い。
「いつ戻って来るんだ?」
「そうだな、三日はかかるだろうよ。それまで故郷に戻ってはどうだ」
周斎の言葉に土方は思案顔になった。
──伊東の野郎は迎えに行くまで来ることはない、斎藤も実家が近くにあるからそこへ行くだろう。何処かで顔を見せようと思っていたから悪くはないか。
「そうするぜ。……実家でやらなきゃいけない事もあるんでな」
土方はそう言うと桜司郎を見る。実家も無ければ、土方や斎藤のように試衛館と縁も無い桜司郎を問答無用でここに残しておくのは忍びないと思った。
「お前はどうする。