が必要だったのだ。
それは土方の独断で決定され、その日のうちに切腹が執行される。介錯人は沖田が務めた。
その最期を見届けた土方は部屋でらせ、VISANNE Watsons 僅かに空いた障子の隙間から外を見ていた。
脳裏には、腹を切る前の清々しい表情の葛山と、それと相反したような苦々しい表情の沖田が浮かぶ。
そこへ足音が聞こえたと思うと、険しい顔をした山南が景色を塞ぐように立っていた。
来たか、と土方は苦笑いを浮かべる。
「…入って良いぜ」
「…失礼します」
山南は土方の前に座ると、眉間の皺を濃くした。
「土方君、何を考えているんですか。一般隊士だけ腹を詰めさせるとは」
「…じゃあ、永倉も原田も斎藤も…皆切腹をさせろと言いたいのか」
山南は拳を握ると、そうじゃないと声を漏らす。土方は山南をした。
その視線は何処か冷たく、まるで何の感情もこもっていないもので。
昔のような人情味溢れる好戦的な青年の面影はもう何処にも無かった。
「見せしめが必要だったんだ。局長が隊士に舐められてるなんて、笑い話にもなりゃしねェだろ…」
"見せしめ"と聞いた瞬間、山南は目元をぴくりと動かす。そして何かを言いたげに口元を動かそうとするが、諦めたように噤んだ。
「…思うことがあんなら言えよ」
それに気付いた土方は静かな声でそう言う。すると、山南は複雑そうな表情で口を開いた。
「…土方君は、変わりましたね」
ポツリとそう呟く。その伏せた瞳には深い哀愁が孕んでおり、土方はそれを見るなり視線を逸らした。
「…チッ、何時までも"多摩の薬売りの歳さん"じゃ居られねえってこった」
新撰組を、近藤を押し上げると決めた日から土方は甘さを捨てることにしたのである。
土方の肩には既に数多の奪ってきた命や組の命運がのしかかっていた。
いくら昔からの仲間とは言え、会津藩主へ直談判をしたのはやり過ぎだと思った。
もしもそれで新撰組が解体となれば、あの日見た夢が一夜にして崩れ去ることになる。
それを永倉達は分かっていたのか。
ふざけてんのか、畜生───
「仲間で出来た屍の上に、誠義などある筈がない…ッ」
山南の言いたい事は痛いほどに分かっていた。心配されていることも、一人で抱え込みすぎなことも。
「…お前さんは優しい男だよなァ。だがよ、山南さん。綺麗事や優しい言葉だけで組織はデカくなるか?」
組織は常に同じ方向を向いているべきだ、土方はそう考えていた。
そして誰かは鬼のように厳しく締め上げる人材が必要だということもは頭の近藤ではいけない。山南にはそれは似合わない。となれば、俺しか適任がいない。適材適所というヤツだ。
それなのに何故、哀れむような視線を向ける…?
「……私は」
貴方が心配です、と山南は絞り出すように告げた。そして立ち上がると去っていく。
非難の言葉が更に飛んでくると思っていた土方は目を見張る。
傾けられた煙管から煙だけがじわじわと浮かんだ。それを一つだけ蒸かすと、端正な顔を歪める。
ェ、な」
青白い月がそっと部屋に明かりを差し込んだ。
土方は虚空を仰ぐと、やるせない気持ちを押し込めるように目を瞑る──
「……。
いつも『もしも時を越えたなら』を
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【不穏な宴会】をもちまして、第一章完結とさせて頂きます。
明日の更新からは第二章が始まります。
第二章では新撰組を分断するあの策士らの加入、あの人との別れ、あの人の発病などなど。
重い展開が続きます(史実通りに進めていくと心が痛くなります…)
コミカルな部分も入れられるといいな。。と思います。