確かに入江の言う通り全く話し合える状態ではなかった。
「心配せんでもあの人にはお三津ちゃんの居場所教えへんからね。みんなもお三津ちゃんの味方,やから安心して。おやすみ。」
幾松はそれだけ言い残して部屋を出た。
それでもまた三津が勝手に居なくなるのではと心配で白石も幾松も気が気じゃなかった。
翌朝二人が部屋を覗くとよほど疲れてたのか部屋の隅で身を小さくして眠っていた。
被った布団が上下しているのを見て二人は胸を撫で下ろした。【植髮終極指南】如何選擇最佳植髮診所?
「そしたら阿弥陀寺行ってきます。お三津ちゃんよろしくお願いしますね。」
幾松は三津の様子を報告したくて早めに屯所へ向かった。きっとみんなも心配してるはずと急いで向かったのだが桂も早々に屯所に来ていた。『最近全然来んかった癖に……。』
広間でみんなから三津が行方知れずのままだと聞かされたのか項垂れて酷く落ち込んでいた。
「今日もみんなで探すけぇ木戸さんは木戸さんの職務に集中してくれ。」
「分かった……。見つかったらすぐに教えてくれ……。あと文ちゃんにも三津が来たら知らせるようにと……。」
「分かった。取り急ぎで一報送る。」
それを聞いた桂は重い腰を上げて広間を出た。その足取りは重く何度も溜息をついた。幾松はその背中を見送るために玄関までついて行った。
「情けない背中。ホンマに何であんなん言うたんよ……。」
「本当にどうかしてた……。三津がいないと駄目なのはこの前で嫌というほど思い知ったのに……。」
幾松は桂の両頬をバチンっと叩いて潤んだ目で睨みつけた。
「このど阿呆!!しっかりしぃ!!」
幾松に怒鳴られた桂は顔を逸して肩を落としたまま屯所を出た。
『何がアカンかったんやろ……。何であの話の流れになったんやっけ……。』
三津は部屋の隅に座り込んでぼーっと考えた。
自分はただ今度こそ傍で支えて生きると決めたのに何故それが拒まれたんだ。
でもこれで良かったじゃないか。私にはあの人を幸せにする力なんてなかった。自分から見棄てる勇気がなかったのだから向こうから捨てられて良かったじゃないか。
『やり直す自信なんかない……。それならもう離れた方がいい……。』
あの人を想いながら忘れてしまった方がいい。
それでも涙が止まらないのは,胸がこんなに痛むのは,あの人への未練なのだろうか。
「お三津ちゃん少しいい?」
「どうぞ……。」
白石の声に掠れた鼻声で返事をした。遠慮がちに中に踏み込んだ白石は三津の前に正座した。
「萩へ向かう日が決まったよ。明後日にここを発つ。それでいいかな?」
「はい,ありがとうございます……。」
三津も居直して額を畳につけて礼を述べた。
「本当に後悔しない?」
白石の問いに三津はふっと笑った。
「後悔は……今まで阿呆ほどしてます。極端な話生きてる事すら後悔してます……。でもそれは私を支えてくれたみんなに失礼やから,これからは身の丈に合った生き方をしていきます……。ホンマにご迷惑おかけしました。」
三津はもう一度深く頭を下げた。畳に額を擦りつけたまま肩を揺らした。
「出立まで少しでも休んでなさい。あとご飯は食べようね。」
白石はその頭を優しく撫でてから静かに部屋を出た。気の利いた言葉もかけてやれなくて大きな溜息をついた。三津がぼーっとしているところへ入江が訪ねて来た。
「九一さん……。」
入江の顔を見た三津の表情が少し和らいだ。それには入江も安堵の笑みを浮かべた。
「出立の日決まったんやな。寂しくなる。」
入江が悲しげに微笑むと三津の表情がまた苦悶に歪んだ。
「大丈夫,会いに行くけんあっちで待っちょって。それに向こうは文ちゃんとフサちゃんがおるんやけぇ間違いなく楽しい。」
三津の手を握って大丈夫大丈夫と目を見て唱えた。三津は潤んだ目で微笑みながら頷いた。
「最後まで甘えっぱなしでごめんなさい。」
「最後?私はまだまだ三津を甘やかすで?会いに行くって言ったやん。頻繁には行けんけどまだ会える。最後やない。」