「貴族達の軍も共に参るのですな。」「勿論、むしろ貴族達の軍を先陣に立てる。何せ、連中はエレナ誅伐の急先鋒だからな。」やや皮肉交じりのゴルゾーラの口調である。「しかし、ノーバーの背後にモスカ夫人が生きているとの疑惑が有りますが。」「そう言えば、お前の配下がノーバーの仮住まいでモスカ夫人の姿を間違いなく確認したという報告が有ったな。まだ、モスカ夫人を捕らえられぬのか?「それが、あの後ノーバーの所を厳重監視させているのですが、ぷっつりと姿が消えたようで、屋敷内に潜入させている者もその後姿を見た者が居ません。まさか、我々の監視に気付いたとも思えませんが。」「まるで幽霊だな。私の方には、兵士達の一部に、私がモスカ夫人の行方を血眼になって捜しているらしいという風評が立っていると報告があった。」「それは・・・・・・何処から漏れたのでしょう。」「漏れたのか、それとも・・・・・・。大人数になると統御も難しいものだ。繪本教學 そちに神からの告げは無いのか。「・・・・・・神は告げています。汚れの乙女に与する魔の者有り、速やかに正義の剣持ちて共に滅ぼすべしと。「モスカ夫人についての告げは無いのか?」「いや、モスカ夫人を指すと思われるものは特には。」「思えば、あれも魔性を思わせる者だ。」目を閉じ、ゴルゾーラは何やら記憶を手繰っている様子だ。太子ゴルゾーラからボーンに再び呼び出しが掛かった。 人払いされた太子の部屋で、ゴルゾーラとナーザレフが待っていた。「先日、モスカ夫人の生死について問うたが、改めて尋ねたい。実は貴族達の軍を取り纏めているノーバーの住まいでそのモスカ夫人の姿を見たという複数の証言があるのだが、そちはどう思う。」 三人のみの部屋の中、ゴルゾーラが直問した。「私のところには別の情報が入ってます。殿下の麾下の兵士達の一部で、殿下の側近の者がモスカ夫人を捜し回っているらしいと噂が立っていると。」「ふむ、その事は余も耳にしている。」「モスカ夫人がゲッソリナから生きて脱出できた可能性は完全には否定は出来ません。何しろ、ステルポイジャン軍がアカサカ山付近で潰滅した直後のゲッソリナは大混乱になっていましたから、身を隠そうと思えば出来たかも知れません。しかし、私自身の調査結果では死亡したものと信じています。」「そち自身が調査したのか?」「つい最近まで、諜報に携わっていましたから。」「ふむ、ではモスカ夫人を見掛けたという証言をどう思う。」
「或いは敵方の謀略の可能性も有ります。敵方の大将になっているハンベエの仲間にイザベラという怪異な力を持つ女がいます。この女ならモスカ夫人を生きてるかのように思わせる事も出来るはずです。」ボーンはイザベラの事も明かした。この期に至っては、宰相ラシャレーの意に従い、ゴルゾーラに忠節を尽くす覚悟をしたようだ。「何の目的で・・・・・・。」「それは解りませんし、又今言った事もただの当てずっぽうで、確証のある話では無いです。ただ、今この時期に突然モスカ夫人が姿を見せるというのも不審な事ですから。」「そのイザベラとは何者だ。」「公にはされていませんが、バブル六世御存命中にゲッソリナ王宮に突如現れ、王女殿下を暗殺しようとしたとされている人物です。サイレント・キッチンも全力を挙げて調査しましたが、その正体は不明です。ただ、『殺し屋ドルフ』という別の名も持っているようです。」「殺し屋ドルフ・・・・・・。」ゴルゾーラの顔が少し曇った。その名に聞き覚えがある。かつて人伝にエレナ暗殺を依頼した名であった。その後、仲介者の死と共に姿を消した人物であった。今ここでボーンの口から飛び出すまで忘れていたが、驚きを隠しきれなかったようだ。
1. 無題