く短い通路があった。
そこをほんの十歩ほど進むと、右手に、床まで垂れ下がったが見えた。
御簾の奥からは淡い光が射し込んでおり、手前には、縁取りの茵が置かれている。
濃姫はその茵の上に腰を下ろすと、目前の御簾を浮き浮きとした様子で眺めた。
御簾をてた向こう側には、外に広々とした縁を構える御書院があり、
室内には茶人にして豪商の島井や、大勢の僧侶たち、
そして近衛前久、甘露寺経元を始めとする公家衆が、きらびやかな装いで居並んでいた。
『 さすがは上様ご主催の茶会。客人も並みならぬお方ばかりじゃ 』
招かれた人々の顔ぶれは、公家衆を見るだけでも関白に大臣、右大臣・左大臣(兼任等を含む)、【低成本生髮?】 什麼是生髮精油?有用嗎?
前関白、前内大臣など、四位以上の貴族たちがこぞって参加している。
そんな貴族たちが
「上様、お成りにございます!」
という小姓の声を聞いただけで、皆々 座の上段に目を向けて、
入って来た信長に向かって、しく平伏してゆく。
『 尾張の田舎大名に過ぎなかった上様が…、若き頃はをしていた上様が…。何とご立派な── 』
威厳あふれる夫の姿を、濃姫は感動にも似た熱い思いで見つめていた。
信長は上座のの中央に座すと、居並ぶ一同の姿を眺めてから
「は大儀である」
と、いつもの甲高い声を響かせた。
一同は静かに頭を上げると
「くもじながら、織田さまにおかれましては、御無事さんにて、都へおうちつきあそばされましたこと、
また茶会へお招きいただきましたこと、大変喜ばしゅう、有り難ぅ、のぅ存じ参らせます」
近衛前久が、はんなりと口上を述べた。
それに続くように他の公家衆も口を開き
「此度は何とも、おひしひしなことであらしゃりますなぁ」
「ごかんたいながら、本日は織田さまがお持ちの名物をおひろもじ頂けるそうで」
「織田さまご所有のもんにございます故、えらいむつかしいお品々がぅてはりますやろう」
「それはそうや、そもじな物などありますまい」
「わもじらにも、こしらえられるお品があらしゃりましたら、是非にもくすしていただきたいものや」
皆々 冗談まじりの上品な笑い声を響かせた。
難解な公家言葉は濃姫にも聞き取れない箇所が多くあったが、それを受ける信長は、終始機嫌よくいていた。りする訳には参らぬが、各々方が申される通り天下一品の物を安土より持参致した故、きっと良き目の保養となるであろう」
楽しみになされよ、と信長は公家衆に白い八重歯を見せると
「宗室よ、そなたもな」
控える島井宗室にも笑顔を向けた。
「茶道具の他にも、数々の珍しき骨董を持って参った故、気に入りの品があれば、そちにくれてやっても良いぞ」
「それは…、まことにれ多いことにございます」
思いがけぬ言葉に、宗室は慌てて頭を下げる。
「ただし宗室。そちが所有すると引き換えにな」
「…な、楢柴を…」
宗室は思わずった声を上げる。の中の濃姫も “ また上様の悪いお癖が ” と顔をしかめる。は、その昔 室町幕府八代将軍・が所有していたとされる茶入であり、
と並び “ 天下三肩衝 ” と称されるほどの名茶器なのである。
宗室は幸運にもその茶器を入手していたが、それを聞きつけた信長が、楢柴を欲しているらしいと風の噂に聞いたことがあった。
まさか事実であり、それもこのような場で申し出て来るとは…。
勿論 何を引き換えにしてもりたくはなかったが、相手は天下の織田信長だ。
に断ればどうなることか…。
宗室が返答に困っていると
「譲ってくれれば、そちの商売はく末永く我が織田家によって支え、護られてゆくことになるであろうのう」
信長は甘い蜜のような囁きをかけた。
「……」
「どうだ? 儂にとっても、そちにとっても良い話ではないか?」
「……上様…」
宗室が、観念しかけたような目で信長を見つめていると
ゴホン! …ゴッホン!
どこからともなく、払いが響いて来た。
これと言って大きな手間はかかりませなんだ。義母上様、お市様のお部屋の方も、万事おするすると」
「左様か」
「また、お慈殿もお付きの者たちを伴い、別殿の方へ入られた由にございます」
濃姫はそう告げるなり
「……あの…殿」
「ん?」
「申し訳ございませぬ」
と、唐突に頭を垂れた。
「私も、お慈殿を “ いざという時に備えて ” 出来るだけ側に置いておきたかったのですが、
同じ御殿にての同居は、周囲の者たちの反対も強く、思うように計らうことが出来ませなんだ」
お許しあれ、と濃姫が面目なさそうに謝すると
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と、信長は気楽そうに微笑(わら)った。
「気に致すな。あれは、同じ御殿内ならば何かと事を運びやすかろうと、思い付きで言うたまでのこと故」
「面目次第もございませぬ」
「良いのじゃ。 ……それよりも、例の件、いつ動くつもりだ?」
「出来るだけ近い内にと思うておりまする。その為に、殿のお力を、幾らかお借りしとうございます」
「ああ。元々は儂が招いた問題じゃからな」
信長は白い八重歯を覗かせて言うと
「それから、お慈、あの者のことは如何するつもりじゃ?」
夕日に染まる妻の端麗な横顔に訊ねた。
濃姫は夫の顔を一瞥すると、柔らかな吐息を唇の間から漏らしつつ、静かに西の彼方を眺めた。
「お慈殿の件は、全て私が対処致しまする。───今のお慈殿は、危険にございます故」
織田家の奥向きに突として大風が吹き荒れたのは、濃姫たちが小牧山城へ居を移してから、まだ三月(みつき)も経たぬ内のこと。
折しも、九月九日の『 重陽(ちょうよう)の節句 』を祝う、濃姫主催の宴席でのことであった。
この日 奥殿の女たちは、周囲に幔幕(まんまく)を張り巡らした城内の広場に集(つど)って、
その中央で披露されている祝いの舞を、緋毛氈(ひもうせん)敷きの台座の上から、愉しげに鑑賞していた。
重陽の祝いに相応(ふさわ)しく、女たちの周りには白や黄色、薄紅から紫と、ありとあらゆる菊の花が飾られて、何とも華やかである。
それらが臨める広場の最前面には、欄干つきの広い雛壇が設けられており、そこに濃姫、報春院、
お市の面々が、各々の侍女たちを背後に付け、悠然とした構えで端座していた。
女性の数が多ければ、ちょっとした季節の催し事でも優美さが増すものであるが、此度の祝宴は今まで以上の賑わいである。
下の席に座す女たちは、口元を着物の袖で隠しながら
「──昨年の清洲での重陽は、菊見の後で軽い馳走(ちそう)が振る舞われた程度でしたが、今年はほんに賑やかなこと」
「──それはそうでしょう。小牧山に本拠を移してから、初めて行う奥向きの宴ですもの」
「──なれど、これだけ華やかなになった一番の理由と言ったら…」
女たちは、濃姫らが座す雛壇の、すぐ右脇に目を向けた。
そこには、濃姫らのよりも一段低い別の雛壇が設けられており、その上に着飾った信長の側室たち。
即ち、病身の類を除く、三男・勘八の生母である坂氏。
そして二女・冬姫の母であるお養が、肩を並べるように座していた。
普段は外に居を構える側室たちが、城の行事に参列しているという今までにない事態に、奥の者たちは驚きを隠せなかった。
二人の会話を聞き、お市は思わず眉をひそめた。
姫君のたしなみとして、日頃 和歌集や物語には目を通すお市も、孟子や論語などには疎く
「義姉上様、孟子の五輪と言いますと?」
思わず濃姫の横顔に説明を求めた。
「人が守るべきとされる、五つの道のことです。即ち、君臣の義、夫婦の別、朋友(ほうゆう)の信、父子の親、そして長幼(ちょうよう)の序。
…きっと殿は、その内の長幼の序を、奇妙殿に学ばせようとしているのでございましょう。長兄である奇妙殿と、弟君・妹君とのお立場の違いを」
濃姫の言葉に、お市ばかりか、三保野までも得心がちに頷く。
「それも致し方ございますまい。幼い頃より英邁と名高き信勝様と比べられ、常に弟君にご嫡男の座を奪われる恐怖にさらされて参ったのですから…」https://newsbreak.com/2096570/3542246853303-latest-trends-in-botox-hong-kong-treatments
そう呟いた刹那、報春院の錐(きり)のように鋭利な眼差しが、三保野の満面を貫いた。
まるで信勝の存在が、長年 信長を苦しめて来たかのような言い種(ぐさ)が気に触ったのか、
それこそ錐で厚板に穴をあけようとするかの如く、ギリギリと三保野の顔を睨み付ける。
報春院は終始無言であったが、それがまた恐ろしい。
三保野は剣呑(けんのん)と思ったのか、慌てて頭を垂れると
「…お、お許し下さりませ、ご無礼なことを申しましてっ」
精一杯の反省顔で謝した。
報春院はそれを黙殺すると、ややあってから軽く目を伏せ、疲労感のある深く長い溜め息を吐(つ)いた。
「──左様なことよりも、千代山、早よう座所へ案内(あない)してたもれ。清洲からここまで休みなく輿に揺られて参った故、さすがに疲れました」
三保野の無礼は一旦他所(よそ)に置き、早々に居室へ導くよう促した。
「承知致しました。 ──古牟(こん)、大方様をお部屋へ案内して差し上げよ」
「はい」
「千穂、そなたは市姫様をお部屋へ」
「かしこまりました」
千代山は配下の女たちに命じると
「お方様のお部屋へは、この千代山が案内つかまつりましょう。 …さ、こちらへ」
奥へ手を差し伸べつつ、ゆっくりと歩み始めた。
濃姫たちは、千代山らに誘(いざな)われるがまま、三手に別れて、御殿の奥へと進んでいった。
濃姫の御座所は、清洲城の頃と同様、奥殿の最奥に設けられていた。
部屋数や、その室内、中前栽の広さなどは清洲城のそれに比べると、多少は劣るものの、
かつて暮らしていた那古屋城の奥向き程の広さはあるようで、十二畳と八畳の上・下座から成る御座所の御居間も、
また他の部屋々も、那古屋城の頃と差ほど変わらぬ広さと趣きがあるように思えた。
だが、やはり新築というだけあって、どこもかしこも真新しい美しさに溢れている。
床の間の柱、畳、装飾品の置かれた棚、障子や襖一枚にしても、安易に触れてはならぬと思える程の贅沢さがあった。
特に天井の欄間(らんま)は、鳳凰や麒麟の姿が豪奢に透かし彫りで仕上げてあり、これは清洲城の奥にもなかった優美さである。
「何しろあの今川との戦じゃ。決着がつくまでに幾日要するか分からぬ。場合によっては七日、十日、はたまた一月(ひとつき)かかるか…」
「そんなにでございますか!?」
「さすがに一月は大仰やもしれぬが、少なくとも行って帰って来るだけでも二、三日は要するであろう。
儂が長く城を空けると知れば、他の敵方が……特に清洲の信友らが、大軍勢を引き連れてこの那古屋城へ攻め寄せる恐れがある」
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「我が首を狙わんと、こちらの隙ばかりを窺ごうている連中じゃからな。
最近では末森城の信勝のもとへ出向き、何やら良からぬ事を企んでいる気な様子」
「…まさか。あのお優しい信勝様に限って、実の兄上である殿を裏切るような真似は致しますまい」
「だと良いがな」
はっと短い溜息を漏らすと
「いずれにしても、親父殿に城番の軍勢一隊でも遣わしてもらわねば、こちらも安んじて出陣する事が出来ぬ。
儂の留守中に、この城ばかりか、町にまで火を放たれては大変じゃからな」
信長は如何(いか)にも城主らしい、威厳に満ちた面構えで言った。
「そこでじゃ、お濃、そなたに頼みがある」
「何でございましょうか」
「使者を美濃へ遣わすにあたり、そなたに文を一通したためてもらいたいのだ」
「お文を?」
と一言呟くなり、濃姫はすぐに察しを付けたように、やんわりと微笑んだ。
「承知致しました。紙の上であろうとも、必ずや殿の御為に、父上様のお心を掴んでみせまする」
姫は打掛の褄(つま)を引き、そのまま立ち上がろうとする。
「暫し待て──。そなた、いったい誰に宛てて文を書くつもりじゃ?」
「ですから美濃の父上様に…」
「そうではない。考え違いを致すな」
濃姫は思わず「えっ」となり、浮かせかけた腰を再び畳の上に下ろした。
「軍を派遣していただけるように、父上様を説得する文を書くのではないのですか?」
「親父殿への説得は使者の役目じゃ。左様な事を一々そなたに頼んだりしては、こちらの信用を疑われてしまうわ」
「でしたら、私は誰に宛てて文を書けばよろしいのです?」
「小見の方殿にじゃ」
「小見…、母上にでございますか?」
この夫の口から、我が母の名前が出て来るとは思いもしなかった濃姫は、目を二、三度ぱちくりさせると
「何故(なにゆえ)に、母上様に文を書かねばならないのです?」
第一の疑問を率直にぶつけた。
「今川を叩き潰したいのは親父殿とて同じじゃ。それ故、儂がその為の援軍を寄越してほしいと申せば、
尾張と美濃、同盟国の絆も相俟って、親父殿は喜んで一軍を遣わしてくれるであろう」
信長は自信たっぷりに言うと
「…じゃが、思うようにばかり行かぬところが、蝮の親父殿の怖いところよ」
ふとその表情に陰りを見せた。
「頭の回る親父殿のこと、援軍派遣を口実に、美濃の者らに儂の動きを探らせ、
出陣した隙をついて、何万もの軍勢でこの尾張に攻め込んで来るやもしれぬ」
「そ、そのような事はございませぬ!父上様はあれでも情に厚きお方。
一度お認めになられた者を裏切るような真似は決して致しませぬ!」
姫が語調を強めて言うと
「ああ、儂も左様に思う」
と、信長は笑顔で頷いた。
「案ずるな、今のは万一、仮にの話じゃ」
「……」
「ただ、そういった可能性も捨て切れぬ故、万が一にも親父殿がこちらの意を汲んでくれぬ時、
または誤った決断をなされようとした時に備えて、こちら側に立って説得に当たってくれるお方が必要なのだ」
「では、いざという時の説得役になって頂く為に、母上に文を書いてお願いしろと?」
「おお、なかなか察しが良いのう」
「……されど、何故にその役目が母上なのです?」
いながらも、光秀はねだられるがままを改めた。
それを聞いて満足そうにく帰蝶の前で、光秀は畳に両のをつき、再び頭を下げた。せながら。帰蝶様におかれましては、織田家のご嫡男・信長殿とのご縁組の、心よりお喜びを申し上げます」
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「え、さぞやお心の波立つ日々をお過ごしの事とごつかまつりまする。
また家中では、殿と兄上様との間でもいかばかりかと…」
光秀の言葉に、帰蝶の整った眉がんだ。
「内紛とは、いったい何の話でございますか?」
「ですから殿と様の──」
言いかけて光秀はハッとなる。
「もしや、ご存じではなかったのですか !?」
帰蝶が瞬時に首を振ると、これはしたりと光秀は口をつぐんだ。
しかし耳に入れてしまった以上、帰蝶も聞き捨てる事は出来なかった。
「光秀殿…申して下さいませ。父上様と義龍の兄上との間で内紛とは、いったいどういう意味なのです !?」
「……」
「光秀殿っ」
先ほど “ 帰蝶 ” と名で呼んでくれと言われたのとはまた違ういが、光秀の心の中に広がっていた。
しかし帰蝶の双眼はく光り続けている。
幼い頃から帰蝶を見知っている光秀には、こういう時の彼女ののゆく説明をするまでは、いつまでも食い下がってくるだろう。
うっかり口をらせてしまった自責もあってか、光秀はやがて、唇をくようにして語り始めた。
「れながら、義龍様におかれましては──」
帰蝶の出立を翌日に控えた、二月二十一日の夜。
稲葉山城の大広間では「いの式」なる、帰蝶と親族たちとの別れの席がけられていた。
畳敷きの上段に道三。やや離れた位置に小見の方がえている。
総床板の下段の端々には、んで、姫君の別れの挨拶を暖かく見守っていた。
帰蝶は下段のに控え、上段の道三と向かい合うような形で一礼の姿勢を取っている。
に口上を述べた。
「父上様──。長い間、まことにお世話になりました。ここまで育てていただいた御恩、帰蝶は決して忘れませぬ」
「尾張へ参っても、達者でな」
「はい」を向けた。
「母上様にも、まことにお世話になりました。いく久しゅう、お健やかに」
「姫も。どうぞ…いつまでも、健やかにのう」
「…母上様」
小見の方の瞳にうっすら涙が浮かんでいるのを見て、帰蝶の胸もジンと熱くなった。
思わず涙が出そうになるのを必死にいた。
道三と目と目で互いの意思を確認し合うと、帰蝶は次に小見の方へとしていた短刀に触れながら、力強くえていると、侍女の三保野と笠松が、を父娘の間に持って来た。
道三は、それで二度ほど帰蝶と酒を酌み交わすと
「ほんに良き娘に育った。うつけにくれてやるのが実にしい」
余裕めいた笑みを覗かせつつ、として呟いた。
この御暇乞いの式が済むと、座は宴席となった。
集まった親類縁者たちにも酒や料理が振る舞われて、皆々で姫君の輿入れをことほぐのだ。
始めは落ち着いた雰囲気だった宴席も、時間が経つにつれて賑やかさを増してゆき、
酔った男たちがら遊興芸人のように、扇や衣を手にして踊り出す一幕もあり、は大いに盛り上がりを見せていた。
帰蝶も上段からその様子を眺めていたが、時折 下段に控える義龍に目を向けては、複雑そうに口元を歪めていた。
六尺五寸(約197㎝)という現代においても高身長だった義龍は、
元より目立つ存在ではあったが、無論 今の帰蝶の感心はそこではなかった。
『 義龍様におかれましては、父上・道三様に対し