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Izanagi's Blog

「脱走して帰り辛いんだろう?」

「脱走して帰り辛いんだろう?」

 

 

どう?当たりでしょ?と得意気に見下ろされ,三津はそっぽを向いた。腹立たしいようで吉田の姿に安堵している。

 

 

「早く帰らないと余計に心配されてより籠の中の鳥だよ?」

 

 

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窮屈なんだ。今はあの店に居られる事になんの喜びも感じられないのだ。

 

 

「まぁ。俺も人の事言えないけどね。」

 

 

吉田はふっと笑って天を仰いだ。それからゆっくり三津を見下ろすとやはりきょとんとした顔をしていた。

 

 

「桂さんに謹慎処分を下されてる。」

 

 

参ったよと吉田は笑うが三津は目を大きく見開き勢いよく立ち上がった。

 

 

「何してるんですか!はよ戻ってください!!」

 

 

抜け出したのがバレたらより重い罰を与えられ兼ねない。

 

 

「心配してくれてるの?嬉しいね。でも大丈夫だよ。」

 

 

吉田は目元を緩めて久方ぶりの三津に胸を満たした。

 

 

「それよりも俺は腑に落ちない事があってね。それは直接会って話さないと気が済まないんだ。」

 

 

三津はまたきょとんとした。はて何の事だと首を傾げた。

その様子に吉田は堪えきれず吹き出した。

 

 

「やっぱり三津は馬鹿だね。自分で言った事忘れたの?俺と桂さんの気も知らないで。」

 

 

馬鹿にしないでくれと吉田は少しずつ三津との距離を詰めた。

 

 

「忘れたとは言わせないよ?俺とはもう関わらない。さよならだって幾松さんに言伝てた事。」

 

 

『そんなので納得する訳がないだろう?』

 

 

吉田は口角を上げて三津の目を覗き込んだ。三津は吉田の言う通り私はとんでもない大馬鹿者だと両手で口を覆い愕然とした。

何で忘れていたのだろう。彼らとの関わりを自ら断つ事を決意したのに。

 

 

「思い出した?もう会うことない?馬鹿言ってんじゃないよ。まだ助けたお礼してもらってないから。」

 

 

妖し気な笑みを浮かべて,吉田の右手は三津の頬に伸びる。

 

 

『あぁこれだ。この感触。』

 

 

吉田は柔らかい三津の頬を摘まんで久方ぶりの感覚に酔いしれた。

三津はと言うと頭の中が真っ白でただ立ち尽くすだけ。黒い瞳だけが挙動不審に暴れてる。

 

 

「でですからみなさんとさよならするのが恩返しな訳でして。」

 

 

急によそよそしい口ぶりになったのを吉田は鼻で笑った。

言葉とは裏腹に吉田の手を振り払う事も逃げる素振りも見せない。

 

 

「本当は会えて嬉しいんでしょ?寂しかったんでしょ?嫌われるのは怖いんでしょ?甘えたいんでしょ?」

 

 

只でさえどうすれば正解なのか分からないと言うのに吉田のずけずけとした言葉が三津を混乱させる。

 

 

「ちょっ!それよりもはよ帰らな!!」

 

 

「そうだね早く帰らないとまずいね。でもこのままで帰る訳にはいかないなぁ。とりあえず撤回しようか。もう会わないって言った事。」

 

 

「それは。出来ません。」

 

 

こんな事している場合ではない。吉田の手をやんわり引き剥がした。

 

 

「許さない。」

 

 

手首を掴んで三津を自分の胸に引き寄せた。

 

 

「撤回しろ。じゃなきゃこのまま連れて帰るよ。」

 

 

『またあの情けない顔で困ってるんだろうな。』

 

 

自分の腕の中で身を捩る三津の表情が手に取るように分かる。だけど予想に反して三津はそれほどの抵抗を見せないし何も言わない。

 

 

「何か言いなよ。」

 

 

沈黙の時間が流れる。何を悩んでいるのだろか

身を剥がそうと押し返してくる力は弱く,このまま連れて帰れるのではと思った。

 

 

「帰りたくないんです。おじちゃんもおばちゃんも変わってもた。」

 

 

『何て事を言ってるんや私は。』

 

 

吉田の腕の中で後悔した。それでもそれが本心だった。

震える声で放たれた三津の本心に大きな溜め息が返ってきた。

 

 

「参ったね。」

 

 

吉田の苦笑が降り注ぐ。連れて帰りたいのは山々だけど今日は連れて帰るつもりはない。やっと抜け出せることが出来るようになったから様子を見に来ただけだ。

 

 

三津が家の中に籠りっきりで店にも出てこない事は入江や久坂から聞いていた。

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